ヒップホップの歴史は、だいたい1990年を境にして、「オールドスクール」と「ニュースクール」に分類できる。1990年より前の時代が「オールドスクール」、1990年以降が「ニュースクール」である。
オールドスクール期に活躍していたアーティストたちは当時、自分たちが「オールドスクール」のアーティストだとは知らなかった。それを知ったのは、「ニュースクール」という言葉が誕生してからだ。
ヒップホップの新しい価値観を提案した新世代のヒップホップ・アーティストたちは、「ニュースクール」のアーティストとして、新たなヒップホップの世代を声高らかに宣言した。
これがメディアによる造語なのか、アーティスト自身が宣言したのかはわからない。とにかく彼らはヒップホップ「第2世代」となった。すると、その前の世代が自動的に「第1世代」となる。
つまり、「ニュースクール(第2世代)」が急に発生したために、「オールドスクール(第1世代)」が強制的に定義されてしまったのである。
イメージ戦略としての「ニュースクール」
従来の定番・定説をひとまとめにして、「前時代的」のカテゴリーに入れてしまうのは、改革派がよくとる常套手段である。そして、新たな考え方・とらえ方を提唱して「新時代」をイメージさせる。
文明開化や明治維新などが、何となく「新時代の幕開け」を連想させるように、「ニュースクール」もまた、1990年以降の「新時代」を想起させる機能を果たしたのであった。
「新世代」と「旧世代」、「改革派」と「保守派」、「反体制」と「体制」。これらの対立構造は、いつの時代にも存在している。
1990年前後のヒップホップでは、これを「ニュースクール」と「オールドスクール」に置き換えたわけである。
古いモノと新しいモノのバランス
古いものと新しいもの。どちらが正解なのかと聞かれても答えは出ない。なぜなら、どちらにも一長一短があり、尊重すべき箇所が必ずどこかにあるからだ。
しかし、無情にも時代は流れる。古すぎる価値観はやがて淘汰されていく。その時代に合ったやり方や考え方が生まれ、その結果、時代に最適化された状態を維持することとなるのだ。
1990年代に形成されたニュースクールは、従来のヒップホップに新たな解釈を加えた。とくに、Native Tongue(ネイティブ・タン)と呼ばれるヒップホップ集団は、「草食系ヒップホップの台頭」という功績をもたらした。
ネイティブ・タンの功績
彼らNative Tongue(ネイティブ・タン)は、オールドスクール・ヒップホップによく見られた、「ゴールド・ネックレス」「銃」「現金」などの要素を排除して、非マッチョ路線で活動を展開した。
いわゆるDQNばかりの世界にオタクが混じっていても、実力があれば評価される時代のドアを開けたのである。これにより、不良にはなりたくないけどヒップホップ音楽は好き、という属性がヒップホップの世界に流入し、ヒップホップの多様化が促進された。
この曲は、1989年にリリースされた、Native Tongue(ネイティブ・タン)のポッセ・カットで、同じNative Tongue(ネイティブ・タン)の同士である、Jungle Brothers(ジャングル・ブラザーズ)や、A Tribe Called Quest(ア・トライブ・コールド・クエスト)らが参加している。
テーマは「バディ」。ということで「友情」についてラップしている。De La Soul(デ・ラ・ソウル)のアルバム「3 Feet High And Rising」に収録されている。
オールドスクールの最終進化形
ニュースクールによって古い価値観として定義されてしまったオールドスクールだが、今でも根強い人気がある。そのワケは明白。「草食系」では表現できない男らしい魅力が詰まっているからだ。
1980年代後半に活躍した、The Juice Crew(ザ・ジュース・クルー)は、正統なオールドスクールの系譜をたどって来た最後の世代と言える。ヒップホップの誕生から順調に進化を遂げた「最終進化形」が彼らだ。
Marley Marl(マーリー・マール)というプロデューサーが、The Juice Crew(ザ・ジュース・クルー)所属アーティストの初期作品に楽曲を提供している。彼のサウンドは、80年代後半におけるヒップホップのトレンドであった。
The Juice Crew(ザ・ジュース・クルー)所属のMCたちが次々と登場する彼らの代表曲。Marley Marl(マーリー・マール)のアルバム「In Control, Volume 1」に収録されている。
まとめ
オールドスクールとニュースクール。今となっては、どちらも「昔のヒップホップ」でしかない。しかし、1990年にヒップホップの概念が分岐した、という歴史的事実は不動である。
今日、存在する無数のジャンルは、さかのぼれば一つの枝から派生したものである。歴史の転換期における時代背景を知ることによって、より高い解像度でヒップホップを楽しむことができるだろう。
元記事 : HIPHOP FLAVA