KENTARO!!は10代で優れたヒップホップダンサーとして登場し、踊りと言葉と音楽を融合した独創的な振付作品でコンテンポラリーダンス界で注目されている。
「銀色テンポラルの中で鳴く」は、主宰カンパニーの女性5人に振り付けた新作。5人がソロで差異を誇示し、正面を向きかみ合わない会話を交わす冒頭から、真っすぐさゆえ空回りする若さが胸に刺さる。だが踊りの熱が高まるにつれ分裂したダンスは共振し、日常を辛辣(しんらつ)に斬(き)るラップのユニゾンが始まり、不安も迷いも思いは共有されていく。言葉と踊りの応酬が、個と集団の関係性のポジティヴな変容を丁寧に描く。
「MAKE IT futten」はKENTARO!!自作自演のソロ新作。舞台に身体一つの潔さだが、ストリート出身ならではの制御された身体が音の粒と反応し、圧倒的な存在感で迫る。しかし彼の持ち味は自己陶酔と対極の、冷徹な視線とユーモア。ロールプレーイングゲームのパロディーで奇妙なサスペンスに引き込む一方、日常に滲(にじ)むせつなさを自ら作詞・作曲し歌う楽曲で静かに踊れば言葉に潜む襞(ひだ)が視覚化され、言葉にならない深い思いがあふれ出る。だが沸点直前でダンスは止まり、また始まる。既存の様式や物語を拒否しつつ進むダンスは、単純な断定も熱狂も是としない誠実さで胸を打つ。類いまれなダンスと常に進化する独自の世界が、同時代を生きる幸福を感じさせるアーティストだ。5月21日、東京・池袋の東京芸術劇場。(舞踊評論家 岡見さえ)
元記事 : msn 産経ニュース 配信日時 : 2014-6-1 13:00