大阪地裁での公判のたび、傍聴席が音楽関係者や店の常連客らで埋まった裁判が1月9日、結審した。
風営法上の許可を取らずに客にダンスと飲食をさせたとして、大阪市北区のクラブ「NOON」元代表の金光正年被告(51)が同法違反罪に問われた裁判。略式起訴による罰金刑が多い同様の事件での公判請求は異例で、風営法による取り締まりの実態が公判廷で明るみに出た。
2012年4月4日。大阪府警の捜査員はNOONに客として入り、店内の約30人の動きをじっと観察していた。午後9時40分すぎ、客が英国のロックバンドの曲に合わせて体を動かしているのを見ると「無許可でダンスをさせている」と判断。摘発に踏み切った。
公判で、検察側は風営法が定めるダンスを「男女の享楽的雰囲気の醸成など、社会の風俗に影響を及ぼす可能性があると社会通念上認められる舞踏」と説明。社交ダンスのように男女一組で踊るものに限らず、ディスコダンス、タップダンスなど「様式の和・洋を問わない」とも述べた。
では、NOON店内の「ダンス」はどのようなものだったのか。
「DJブースに向かってステップを踏むのは○、腰をくねらすだけなら△、リズムを取るだけの軽い上下運動は×」。出廷した捜査員の一人は府警本部の資料を基に、ダンスか否かを判断したことを証言。「他の捜査員と相談し、左右に1メートルくらいの幅でステップを踏むような動きを『ダンス』と決めた」と話した。
一方、別の捜査員は「音楽に合わせ、楽しくリズムに乗って踊っているような状況があれば、享楽的うんぬんはクリアでき、摘発できる」。異なる証言からは、「ダンス」の摘発基準が明確でない実態が浮かぶ。
客同士の距離については検察側が「30センチ前後~1メートル以内。ある程度密着しうる」と主張。弁護側は「数十センチ~1メートル以上。密着して踊るような状態ではなかった」と反論した。府警は摘発時の様子を記録した映像を削除しており、検証は困難だ。
弁護側は「純粋にロックミュージックを楽しみ、思い思いに体を動かしていただけ」とし、「享楽的」ではなかったと訴えた。検察側証人として出廷した客らは「売買春の場面や違法薬物の使用をこれまで見たことがない」「音楽の勉強になった」とも証言した。
判決は4月25日。曖昧さが否めない風営法に基づく取り締まりを司法がどう評価するのか、関係者は注目している。
元記事 : 日本経済新聞 配信日時 : 2014-2-6 11:36